山口利枝 展

2015年1月17日(土)−25(日)
会期中無休
作家在店日:17(土)

盛ってみてわかりました。
様々あるどんな形のものも、
山口さんの器は驚くほど
サイズ感が良く使いやすい事に。
上品に浮かび上がる白。
藍色は大胆に画面を走るものから、
見え隠れする清楚なものまで。
健やかに描かれた文様の器に、
料理が映えて嬉しくなります。

→ 上より、渕鉄イッチン唐草鉢、花唐草そば猪口、
   ぼたん文輪花6寸鉢

まだお正月気分も抜けきらない1月上旬、
鹿児島県日置市で制作をされている山口さんを
訪ねました。空港から鹿児島市の市街地へ
リムジンバスで40分。そこから桜島を背にし
薩摩半島を西へ横断する電車に乗りかえ20分。
工房の最寄り駅に着くと、笑顔で山口さんが
待って下さっていました。更に車で15分ぐらい
だったでしょうか、左右が米や大豆の田畑だという
国道を走り、ようやく山口さんの工房に到着です。

花唐草7寸皿の2種

工房にされていた場所は、子供の頃毎週末来て
いたというお父様のご実家。お住まいの鹿児島
市内からは車で通われています。日本三大砂丘
の1つで、日本一の長さを誇ると言う吹上浜の
直ぐ近く。103歳で今もお元気なお婆様(現在は
別の場所にお暮らし)の作られたパッチワークの
数々が壁を埋め尽くし飾られているお家です。
お婆様のぬくもりやパワーに包まれる様に制作
をしている山口さんでした。

左上:素焼が済み、絵付の仕事を待つ品々。
 大鉢、丼、皿、酒器、マグカップ、一輪挿し…
右上:絵付が済み、本焼を待つ品々。全て
 新作だそうです。蓮文や鉄絵唐草の飯碗。
 草文小皿、松葉文の角皿、菊花文の長皿、
 渕鎬の草花文皿、牡丹唐草の楕円皿など。
左下:仕上がり出荷を待つ品々。アイテムが
  多いです。店内に広げるのが楽しみです。

日差しの差し込む縁側に机。絵付け作業をされている場所です。
4つ並ぶ器には左から、藍色となる呉須の線描き用、それを2段階で
薄めた2つのダミ(塗り込み用)、そして茶褐色となる鉄。この4色で
あらゆるパターンの文様は描かれているというわけです。オリジナル
あり、古典柄を部分的に取り入れ、独自の仕上げをしたものと文様
はあります。新柄など、ラフスケッチを重ねて作り出されているのかと
思いきや、浮かんでくるままを器に直接描いているそうです。筆運び
の大らかさや筆致の軽やかさに山口さんの絵付けの魅力を感じます。

窯や轆轤を置いている工房は母屋の隣にありました。元は物置で、
真夏はかなり厳しい状況になるようです。(時折鳥もどこからか
舞い込んでくるとか) 電気窯は2つ。小さな方は人から譲り受けた
物で、大きな方に入りきれなかった時に使用しているそうです。

石膏型を使った型打ち作業もこの工房でされていました。見覚えのある
形や模様がたくさんあります。そして今は珍しい、古い木製の菓子型を
利用し作られた物もあり。聞けば、お母様のご実家が和洋菓子店を営ん
でいたのだそうです。山口さんにとってはお宝でしょう。

左:轆轤の上に鏡餅が供えてありました。年末で轆轤を引く仕事は済んでいるそうです。
中:お婆様が梅干し用に使われていたと言う編目も美しい竹笊。1m以上はあります。
右:注ぎ口(切れの良い)の構造が描かれている紙。親しくされている陶芸家の増渕篤宥
 さんが下さったのだそうです。着手はこれから。いずれ急須なども作りたいそうです。

京都の藤塚光男さんの下で3年修業をした後、迷いなく故郷の鹿児島に戻られた
と伺いました。この地で12年が経ったところだそうです。独立後しばらくは先生
(山口さんはこう呼ばれる)と同じ材料を使われていたそうですが、現在は天草の
磁器土に、鹿児島の枕崎で作られたポンカンの灰を釉薬にしているそうです。
身近にある恵を生かした物作りは、山口さんがこの土地で制作をする意味を
より強くし、山口さんの焼物の独自性にも反映されていると言えるでしょう。
1:釉がけをする場所。寒い時は工房内に移動するそうです。
2:施釉した器をこの板に並べているそうです。痕も模様に見えます。
3:ポンカンの灰です。作って下さっている方も少ないと伺いました。
4:訪問日は曇っており桜島は見えず。翌日、鹿児島市内からはこの通り。

山口利枝 やまぐちりえ

1977年 鹿児島県生まれ
1998年 兵庫大学 短期大学部 
      美術デザイン科 卒業
1999年 兵庫大学 短期大学部 
      陶芸専攻科 卒業
1999〜2002年 藤塚光男氏に師事
2002年 鹿児島にて独立

意外だったのが、絵付けの作業より
轆轤や型押しなどの成形の工程が
好きだということでした。でも絵を描くこと
が好きで、美術コースのある高校へ進み、
大学で陶芸と日本画の2つを専攻したと
伺いました。今の道を見据えての選択の
ように思えますが、まだこの時点では
結びついてはいなかったそうです。
作られていたのも陶器だったそうですし。
磁器と染付への第一歩は、卒業後の
弟子入り先でになるそうです。

山口さんのこれまでを色々伺うと、
良い導きとご縁に恵まれている人だと
わかります。でもそれは、山口さんが
素直な人だからもたらされたものだとも
感じました。そして山口さんの笑顔にも
幸運を引きよせる力があると…

好きなお酒は芋焼酎。(薩摩の人です)
酒器はそば猪口になってしまうそうです。

工房の目の前です。山口さんに言われて気づいたのですが、
田畑の向う側に水平線がチラッとだけ見えました。東シナ海です。
ちょっと車を走らせれば海、天然温泉もあり(内風呂がわりに
入っているよう)、薩摩焼の窯元が集まる地域も近く、焼物の
材料にも困らないそう。この土地が好きだと、送って下さる車の
中でぽつりと言われた山口さん。この風土が山口さんの器作り
を大きく後押ししていると言っていいのかもしれません。

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お母様が作られた金柑の
甘露煮や、茶所鹿児島の
煎茶と銘菓をいただきま
した。美味しかったです。