小林慎二 漆展

2012年11月17日(土)−24日(土)
作家在店日:17、18日

けやきの木目が浮き立つ輪花鉢。
小林さんの新たな塗り物です。
形が際立つ赤や黒の塗りとは、
また異なった趣の美しさ。
加飾のものにも仕事を広げたいと、
自ら形にも手を加えています。
子供椀から丼までの椀各種を中心に、
新作、そしてお弁当箱や箸など、
どんな器とも合わせのきく、
日々使いたい塗り物の数々が揃います。

丁度2年前、能登半島の穴水と言う町に
居た小林さんを訪ねていますが、
今回は、その半年後に茨城県の鹿嶋市に
引っ越しをされ、新たに工房を構えた
小林さんを訪ねてまいりました。

→こちらがほこり厳禁の、上塗りをする
部屋。右にあるのは、[機械風呂]と言う、
回転をしながら乾燥をさせる、箱状の室に
なります。奥行きが170cmあり。引っ越し
の際は一旦解体して運搬したそうです。

*2年前の工房訪問記はこちらから。塗りの仕事、[機械風呂]の事、道具の使い方など伺っています。

こちら↑、たらい舟の様ですが(本当に乗れるくらいの大きさ)、[くろめ鉢]と言うものだそうです。
上塗り用の漆は、生漆の水分を2.5%までに蒸発させたものを使うらしく、それを作る際にこの
鉢に漆を入れ、[かい]と言う道具で乳白色の漆が茶褐色になるまで下から上へを繰り返す、
[くろめる]と言う作業をするんだそうです。(3〜4時間やって6キロあった漆が4キロほどになる
そう) 梅雨明けした、夏真っ盛りの時季にやらなくてはならない仕事だそうです。
右:庭先で[くろめる]作業中の小林さん。なんか楽しそうに見えます… (パソコンにあった画像)

→ どちらの画像の物も轆轤だそうです。
左側が塗り専用の[真空吸着式手回し轆轤]。
上に器をセットし、左手で下のハンドルを回
すスタイル。そして右画像、小林さんの前に
あるのが、研ぎ専用の[真空吸着式研ぎ
轆轤]。研ぎ汁を受け止める桶の中に轆轤が
あり、こちらはフットコントロールです。(研い
でいる格好をしてもらいました) この2つは、
以前見せていただいた轆轤とは違っていま
した。器を台にポンと置いいただけで回転さ
せても落ちない。金具での固定もしておらず。
お察しかもしれませんが、真空ポンプで台の
下から器を吸引し、落ちない仕組みです。
誰が考えたのか、何でも道具は日々進化し、
作り手にはありがたい事と言えますね。

[制作途中のもの]
1、制作途中のお品物が置かれた棚です。気になるものがありつい触ってしまっていました。
  ここにある箱物はまだ木地の状態ですが、既に出来上がっている重箱類はあるそうです。
  大きな盆、つぼ椀、わっぱ類・・・
2、積み上げられているのは様々な使い方が出来る正方皿と長方皿。仕上げを待っています。
3、輪花鉢が今回のDMになっていますが、こちらはそのお鉢の漆を拭く前の状態になります。
  木には[道管]と言う水分の通り道があり、それを塞ぐ為、砥の粉と漆で作ったパテを塗り
  は乾かし、そして研ぐという工程を3〜4回繰り返した後に、拭き漆の作業があるそうです。
  見えない作業はいくらでもあると言うことですね。
4、そして店主が最も気になったものが、乾かす為の[塗師風呂]と言う棚にあったこちら。
  ひらひらしているのは銀箔で、蓋物になるそうです。透明な漆をうっすら塗る仕上げと聞き、
  益々出来がりが楽しみなりました。
5、こちらも[塗師風呂]の中。写真がボケてしまっていますが、赤の美しさは伝わるかなと・・・ 
 小さな椀から丼  サイズの物までありました。黒や溜塗のものも仕切られた隣の棚にあり。

左:輪花鉢はサイズがいくつかあり、
 拭き漆だけではなく、黒で少しだけ、
 木目が透ける塗りになっているもの
 もあり。そして奥にあるわっぱは、
 お弁当箱サイズぐらいに見えるかも
 しれませんが、もっと大きな物で、
 道具箱などにも使える大きさです。
右:サーバー2色。しゃもじにしても
 もちろんいいです。ご飯物を取り分
 けるお料理が作りたくなります・・・

左:作業台真正面にもみじ。こちらは裏庭ですが、他にも桜や桃の木 などの苗木を
 植えられているそう。 四季の移りかわりを感じながら仕事が出来る工房です。
中:左より、繕いをされていた小壺(陶器)。塗りの蓋を作り、蓋物になっていたこちらも
 陶器の 小壺。蓋の合わせがしっかりと作られている磁器の蓋物。それをモデルし
 作られたと言う漆の蓋物。センスの良さがわかります。
右:可愛いお嬢さんの写真を発見。工房の片隅にある書斎スペースです。

小林慎二 こばやししんじ

1974年 東京に生まれる
2001年 東北芸術工科大学芸術学部
                   卒業
       赤木明登氏に弟子入りが決まり、
       輪島漆芸技術研究所を退所
2005年 4年の年季を終える
2006年 1年の御礼奉公を終える
2007年 独立

能登と茨城。狭い日本ですが気候には大きな違いあり。
その点が漆器作りにどう作用するのか、移り住む前
までは、多少の心配があったのではと思い伺うと、
意外にも、乾燥の環境は以前より良くなったとの事。
(人為的な調整をせずに済んでいるらしい) そして上塗り
の質感は、更に小林さんの気に入るものになっているん
だそうです。(それは個展でじっくり見たいです!!)

微妙な違いを感じとる力がないと出来ない仕事だと改めて
感じました。繊細だけれど大らかさを感じる小林さんの塗り
物。毎日の食器としての塗り物と、小林さん自身の好みを
反映した仕事への展開も始まっているようです。気持よく
仕事をされている様子は伺ってわかり、今展が益々楽しみ
になり帰ってまいりました。

家に居るのが楽しくて何処にも出かけないと言う小林さん。
犬は2匹。能登から一緒に来た[マル]と、引っ越してきて
から家族となった[テン]。こちらは[テン]です。

裏庭は和を意識した樹木。南側に植えた苗木はほとんどが果樹だそう。
(小林さんの希望らしい) そして聞いてびっくりなのが、その品種の多さ。
柿、栗、蜜柑、金柑、柚子、はっさく、レモン、梅、プラム、ブルーベリー、
オリーブ、馴染みのないジューンベリーという物もあり。まだ庭はガランと
した状態で収穫までにはまだまだ年月はかかりそうですが、それらが育ち
実るのを待つ小林さんの楽しみが羨ましくなりました。そして庭の先に畑も。
この土地に越す決め手の1つに、「土が良い」と言うのがあったと聞きます。

奥さまのあつ子さんは明るくて飾らないお人柄。周辺に居る野生動物の話。
小林さんの苗木購入失敗談など、新生活の笑える話を色々して下さいました。
手作りのパウンドケーキはレモン味で美味しかった。小林さんの小皿です。

シルバーブルーと言うアカシア。
先が紫色で綺麗でした。
庭で実がならないのはこの木
だけだそうです。

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東京駅から高速バスに乗ること1時間20分。
向かっているのは茨城県のはずなのに、
バスがひたすら走っていたの千葉県内。
そう、小林さんが暮らすのは、千葉から少し
だけ北上し、霞ヶ浦と太平洋に挟まれた所。
稲田のある水郷地帯。遮る物の無い平野が
広がっていました。降りたバス停から、迎えに
来ていただいた車で更に20分。北浦の湖を
渡り、カシマサッカースタジアムの横を通過。
両脇の緑が次第に濃くなり、林の中の砂利道
へと車は進みます。しばらく行くと、突如光が
ふりそそぐ空間がぽっかりと出現。そこには、
四方を森に囲まれた素敵な家がありました。

木がふんだんに使われているお宅。南側と
2階が住まい部分で、日差しのやわらかい
1階の北側に工房は作られていました。
← こちらが、下地作りなどをされるところ。
その奥に、上塗りをする部屋があります。